In a short time.
大学の講演に呼ばれ、スピーチの後、捕まった。
それは遊戯の手で、後ろにはいつもの仲良しメンバーが揃っていた。
講堂で騒ぐこともできず、少しは目立たないようにと、普段は被らない帽子や薄い色のサングラスを掛けられてしまった。ネクタイと上着だけを秘書に預けられた。珍しくその後の予定がなかったのが悔やまれる。
いつのまにか一緒に、にぎやかな学園祭を練り歩いていた。
人込みは苦手だった。秋晴れの陽気も手伝い学生だけでなく、子供や中高年の姿も見受けられる。
はぐれないようにと遊戯が手を繋いでくる。……確かに埋もれて見えなくなってしまいそうだった。
屋台をみつけては、立ったまま食べ始めるために出口に着くのはいつのことになるのかとため息が漏れた。
今は水餃子を食べている。もう五軒目の屋台だったので、そろそろ帰りたいと思い始めていた。
「海馬、口開けてみ」
目の前に水餃子が突き出される。
「ここのは、お前でも食べられるよ。添加物とか入ってないから」
城之内だった。
中国人留学生の屋台らしく、手で皮をこねている姿が目に入った。大鍋でぐつぐつと茹でている。
大きな木の近くに立っていたせいで後ろに逃れることができず、仕方なく口を開け、放り込まれたそれを食べてみた。肉厚の皮に包まれた餃子は、さっぱりとしていて確かにおいしかった。しかし、溢れ出した肉汁が熱くて、舌にぴりぴりとした感覚が残った。
「冷ましたつもりだったんだけど、まだ熱かったか」
苦笑しながら、氷のたくさん入ったウーロン茶を手渡される。
「ほんとに猫舌なんだな。悪い」
この男はどうして、オレの好みを知っているのだろう。
「大学の学園祭って、規模が違うな。展示とかも面白いし。
そこに講師で呼ばれるって、やっぱり海馬は凄いな。ちゃんとみんなで講演も聞いてたんだぜ」
秋の日射しを受けて金色の髪が光っていた。初めて瞳も琥珀色だと気付いた。
「オレには大学なんて関係ないけどさ」
眩しそうに校舎を見上げてつぶやいた。
喧騒の中、城之内の言葉だけが耳に残った。
20150516