SOUL BUDDY

【サンプル:Red Monster】

　海馬の所有物件はいくつかあるが、個人名義でもマンションの部屋を持っていた。
会社に近い高層マンションの上層階を帰宅が遅くなるときや出張の前後などに利用していた。
　そこへ犬が遊びに来るようになった。

　文句を言い募る城之内を避けながらカードを眺めたが、初心者向けのバランスが取れた良い組み合わせだった。
「ほう。なかなか使いやすそうだ。
貴様にも意外な才能があるのだな」
城之内の反論が止まった。
「どうした？」
　神妙な面持ちの城之内というものを初めて見た海馬は戸惑った。
「世話になってる人から頼まれたものなんだ。
……って、それは言ったっけ。
その子がデュエルが楽しいって思うようになって欲しいんだ。
海馬にアドバイスしてもらってもいいか？」
頭を下げられた。
　テーブルに移動して一枚ずつカードを並べた。

　　　　　* * * * *

　最初の頃に避妊具を着けての挿入で血を見てしまった。
それから海馬は装着を嫌がった。
ローションとの相性が悪かったことと……慣れではないかと思う城之内だが、確証がないために強くは言い出せないでいた。
　その後の城之内にできることはなんとか理性を総動員して中に出さないよう心がけることくらいだった。

　海馬からすると、城之内は世話焼きが過ぎると思えた。
　余韻に浸るのはおかしなことなのだろうか。まどろんでいたくなるのは当然ではないだろうかと腹立たしくなった。
幸せを感じる自分のほうがロマンチストなのだろうか。
動き回られると興が冷める。
　元々体は丈夫なのだ。眠れば回復する。自分の体調の予想はつくので大丈夫だと口にしたら信じて欲しい。

　お互いの意識のズレを確かめないまま数ヶ月が過ぎた。
　二人とも忙しかった。
　海馬は新規事業を立ち上げ地元にいない日々が続いた。
　城之内は入社して三年目の会社で新人指導を任され、工場や研修先への送迎も行っていた。
運転をしているとメールやメッセージを入れることは難しかった。
だからといって何も連絡をしないのは寂しいと思った城之内は、海馬に写真を送った。
野良猫や散歩中の犬など城之内に懐いてくる動物達の、いい顔だと思うショットを送った。
　小動物に好かれない海馬にとっては、何かの嫌味かと端末を投げつけたくなった。

　　　　　* * * * *

「城之内のことで、訊きたいことがある」
　その言葉でようやく城之内から『本田とはマブダチだ』と聞かされていたことを思い出した。
『親友・遊戯』とは
また違うものだったのだろうか。問い詰めておけばよかったと悔やまれた。
「城之内はオレが探す。
ケンカもしていないし、別れたつもりもない」

　車寄せでＳＰ二名と共に車から降りたった。
施設案内は全員の頭に入っている。
　どうせ刑事が待っているのだと正面から乗り込むことにした。
　面会希望相手の欄に記入し職員に手渡した。
「こちらに来てもらえますか」
　海馬はスーツを着た男たちに囲まれた。言葉は丁寧だが威圧的な態度だった。

　　　　　* * * * *

　年が明けてから海馬は渡欧していた。
『誕生日に何か欲しいものはあるのか』
『海馬が欲しいです』
訊かなければよかったと後悔した。
『わかった』
短い返信に城之内は悩んだ。
――わかったって、わかったってなんなの？海馬どうした?!――
　なんだそれはと言い返してくる姿を想像していた。ばかか、でもよかった。

　ふわふわと揺れる膝と爪先が見えた。
間に、城之内がいる。
「今何回目……」
「三回目」
「飛んでたか」
「ちょっとだけ」
「暑い」
　少し体を浮かせるとタートルの腕と頭を抜いた。
　白い首筋があらわになる。城之内は誘われるように近付いた。
長い襟足が濃い茶色になって湿っている。
その毛束を鼻先でかき分け舐めるとほぅと吐息が漏れた。
「凄い汗だな」
　城之内の背を撫ぜた。
　首筋に気を取られている城之内を海馬はぎゅうっと締め付けた。