◆ ラムのラブソング(2015)


♪ 好きよ……好きよ……好きよ…… いちばん、好きよ! ♪

 朝食の献立はサラダとハムエッグに豆腐の味噌汁。
 日向さんが作ってくれた。本当は俺が当番だったけど、夕べのせいで交代してくれた。

 夕べの……最近の日向さんは、しつこいと思う。
肝心なところには触れないで、全身くまなく愛撫される。
 特にお気に入りは乳首らしくて、吸われ過ぎて熱を持っている。跡を付けるなときつく言ってあるからその反動なのかもしれない。
理由は多分、俺を後ろだけでいかせるようにしたいんだ。突きたてられるだけで、達するように。
……それは調教って言うんだ。
 そのことに腹がたって。
 どうして拘るんだって訊いてみたら、予想もしない言葉が返ってきた。
「色っぽいから」
 照れながら、ポツリと一言。
 最中にめちゃくちゃ色っぽいとか、言われていたような気はしていたけれど。

――失態だ!ずっと考えていたからって、朝からする話じゃなかった。
 顔を見られたくなくて、立ち上がりながら日向さんの前髪をかき上げてキスを落とす。
「ごちそうさま」
食器もそのままにテーブルを後にして、自分の部屋に逃げ込んだ。
ぽかんとしてたように思うけれど、そんなのは無視だ。

……ばかだ。
どっちに?日向さんに、それとも自分に?
下肢の中心が熱を持ってくるのがわかる。前も後ろも。
でもこれは待っていれば落ち着くからまだいい。
 目下の悩みは、上半身。情けないことに乳首だ。
 弄られっぱなしで、立ち上がって痛い。服に擦れると感じてしまう。
 机の上にある小箱から、2枚の絆創膏を取り出して、鏡の前で貼り付けた。そうすれば悩まされることなんてないが、毎日この瞬間が嫌だった。
 鏡の中には、むすっとしながら少し赤くなった自分の顔が覗いていた。
 ため息をつくと幸せが逃げるなんて、誰から聞いたのか覚えていない。
でも、今日からこれはため息じゃなくなる。きちんと理由を訊けたから。
色っぽいなんて、男への賛美じゃない。でも、言われて嫌じゃなかった。おかしなことを考えてしてるんじゃなかったんなら許せるって思ってしまった。
 まあなんというか、そのくらい俺もあの人も愛し愛されている状態だ。

「若島津、そろそろ行くぞ」
 軽くドアがノックされた。
 俺はといえば、やっと出かける準備ができたところだった。
夕べ用意ができなかったのは日向さんのせいなので、強くは言えないのかもと思うとおかしくて、つい笑みが漏れてしまう。
「もうちょっと…お待たせ」
 ディバックを肩に掛けて扉を開けると、少し顔が赤い(ような)気がする日向さんが所在なげに立っていた。
戸締りはと尋ねたら、焦って確認して戻ってくる。
ありがとうとこたえながら引き寄せて、触れるだけのキスをした。
 それは怒ってないよの合図。
すべて納得した訳ではないけれど、今は話し合う時間がない。
だからとりあえず行こうと声をかける。

 +  +  +


 2人共練習着で家を出る。
大学のサッカー部専用グラウンドまで走って10分。
今日のように急いでいるとき用に、普段着は部室のロッカーや寮の仲間のところにも置いてある。

 俺、若島津健と日向小次郎は春から寮を出て同居している。
 寮とは反対の方向に借りたマンション。
 理由?双方の一身上の都合です。同棲しますとは言えないでしょう。
 寮を出て、色々楽になりました。
集団生活には慣れっこだったけど、寮ではさすがに2人だけの時間を持つのは難しかったから。

「おっはよー。走ってきたの?」
「元気だな」
 グランドに着くと様々な声が掛かる。
ロッカーに荷物をしまいに行くのも面倒なので、ベンチに置いていると背中に乗ってきた奴がいる。
「あいかわず、仲良いね」
 渋い声で、こんなことを言ってくるのは長い付き合いの反町だ。
「懐くな。重い」
 冷たいなーと言いながら今度は日向さんの背中に回る。
「なんか用か?」
 どちらかというと、まともにこたえるのは日向さんのほうだ。
「今日のフラ語、抜き打ちテストがあるって」
 俺の第二外国語はドイツ語なので、聞き流していた。
「夕べ情報回ってたんだけど、もしかして日向さんは知らないかなーと思って」
 横を見ると日向さんは頭を抱えている。
 昨日は俺の部屋に居たから、チェック等していないだろう。
「んで、これ対策用。日向さん、ひとつ貸しね」
「反町!」
 視界の端に目を潤ませて手を取り合っている姿が映る。
 なぜだかこの2人は芝居がかった所作が多い。
 お先にとランニングの列に加わろうとしたところで、背中に声が掛かる。
「来月の15日、空けといて!」
 振り返り、反町を睨みつける。
「これで日向さんの貸しチャラだから」
「俺が返すのか?」
 反町の頼みごとが、面倒でなかったためしがない。
俺が代わることに言及するとややこしいので、一言だけ文句を加えた。
「合コンは絶対行かないからな!」
「大丈夫、そんなお邪魔なことしないって」
 隣で成り行きを見守っている日向さんがほっとしている。
――だから、表情全部見せちゃダメだって!それを反町は楽しんでるんだから!
幸いこちらの会話は周囲の注意を引いていないようだった。
 反町と日向さんをしばくのは後にして、先に走り出した。

お互い大学に進学したことのほうが驚きだと思う。
 若島津健、19歳。
 東邦大学経営学部2年。
 サッカー部所属。空手道場師範代。
 ポジションキーパー。

 同居人
 日向小次郎、20歳。
 東邦大学体育学部2年。
 サッカー部所属。Jリーガー。
 ポジションフォワード。

 +  +  +


「上にあがってもテストばっかりだな」
 窮屈な階段教室の机に顔を伏せて日向さんがつぶやく。テスト対策の用紙を前席の背もたれに投げ出している。
 俺はもうすぐ始まる心理学のテキストを広げた。
まだ2年なので、教養課程は一緒になることが多い。
「だから同じの取れば良かったのに。ドイツ語。発音かっこいいし」
日向さんがやだ、と漏らす。やだって、子供か。
はいはい、ドイツ=若林のイメージは変わらない訳ね。
俺はそこまでこだわりがない。奴とのポジション争いには燃えるけど。……S・G・G・K若林が怪我をしないのは運が強いのか?それは嫌だな……。
 カンペ丸覚えしたらと言って、背中を叩いて身体を起こさせて、授業のノートを取り始めた。

 学食で昼食をとっていると、ぐったりした顔の日向さんと反町、同期のサッカー部員たちが現れた。とりあえず空いている席に座り込んでいる。
 昼前の講座は例のフランス語だった。そこに出ていた者の屍と見るべきだろう。
気付けば視界の端々で、机に伏せっている生徒がいる。しかしどうしたと、尋ねようとしている者はいなかった。
 今食べ始めたばかりなのだ。できれば関わりたくない。
 ところが机の端の方から水をくれ〜という地の這うような声が聞こえてきた。
 島野と俺は視線を合わせると肩を落として箸を置いた。あの低音は同学年2トップの物に違いない。
2人で、ウエイターよろしく水を置いていく。
世話はそこまでで、もちろん食事に戻るつもりでいたが、島野は反町に腕を取られてしまった。
俺はかわしたのに、残念だ。
 つぶれていた者達は、水を飲み干すと目にやや輝きを取り戻し、蠢き始めた。
「やっと喋れる…」
 島野はしかたなく反町にどうしたと訊いてやっている。
相変わらず優しい。戻ろうかどうしようかと逡巡していると、反対側にいた日向さんのすがるようなまなざしに捕まった。

 +  +  +


 島野とはほぼ同じ選択科目を取っているために、大学に入ってからは一緒にいることが多くなった。真面目な性質で、側にいるのが楽だった。
 日向さんと同棲しようと決めたとき、茶化さない分反町よりも島野に話すほうが怖かった。
島野は驚いた顔をしたけれど、いいんじゃないかと笑ってくれた。
(後日部屋ではめいっぱいいちゃついていいから、外ではしないように気を付けてと心配もしてくれた。俺はそんなにうわっついていたのだろうか)
そんな訳で島野のために鬱な集団の話を聞くことにした。
後で冷たい奴だと絡まれないように、もしかしたらわざと残ってくれたのかもしれない。
 
 フランス語は出席していれば点数になるという特典があり、実は意外に人気講座だった。
 抜き打ちテストはなくなって、本番は次回ということになったそうだ。
筆記ではなく、口述になるらしい。けれど課題は会話ではなく歌だったそうで。
発音を間違えずに歌えるようになってきなさいと爽やかに教授は語ったそうだ。
 フランス語が特に大変だったって聞いてなかったけどと疑問の声があがると、夏季休暇の間に教授が方針を変えたらしいとブーイングが起こった。
「教授が結婚したんだよ!」
「そしたら、やっぱり愛の歌は歌えたほうが良いとか言い始めちゃってさ」
 そろそろ食事を食べ終えた連中も近寄って話を聞いてやっていた。
 フランス語の教授って、上品な感じの外人だったかとぼんやりしたものが頭の中で浮かんでいた。
「でも歌うのは『ラムのラブソング』なんだよ!」
 他の机の上でも、そうそうと悲壮な声が上がっている。
 どこかで聞いたことがあるような。昔の……アニメの主題歌か?
 それって、うる星やつら?と誰かが訊いている。
 おぼろげながら思い出してきた。
 キーが高くて歌えないってこと?とまた質問が上がると、教授は見本として普通に歌ったからそういう訳ではないと返ってくる。
 問題はテンポが速いその曲を、『かわいらしい子猫のように歌え』と言われたことだという。
 文学部じゃないんだ!と誰かが頭を抱えている。
遠巻きに女子の笑い声が聞こえてくる。
 低い声の奴には難儀なことだねぇと、誰かが慰めにもならないことをつぶやいた。
 成程。サッカー部2年の2トップには難関だ。
日向さんも低いが、反町はどすこいなんて影で呼ばれているぐらいにもっと低い。
 島野が反町を慰めているそのときに、俺はと言えば日向さんが歌うところを想像して、笑いを飲み込むのに必死だった。
強い視線が突き刺さってくる。多分見られたなぁと思ったが、慰め役はたくさんいたので、開き直って食事に戻った。

 +  +  +


 「若島津、歌、一緒に練習してくれ」
 午後の授業も練習もすっかり終わり、部屋に戻って夕飯の支度をしているときに日向さんが真面目な顔で言ってきた。
 そこで絶対に笑ってはいけないとわかっていたのに、ぷっと笑い声が漏れてしまった。
 フォローもしないうちに、日向さんが難しい顔になってリビングに戻ってしまった。
 日向さんは大学に入ってから肩の荷が下りたのか、練習以外ではあまり怒らなくなった。今も多分落ち込んでいるのだと思う。捨てられた子犬のような目をしているって気付いているんだろうか。
 背後の鍋の火力を弱めにして、床に体育座りをしている日向さんの側まで行った。
午後はまったく違う授業で、練習もパート別だったから一緒にはならなかった。
……体育座りって、いったいどんな気分なんだろう。
隣に膝を折って、日向さんの顔を覗き込む。
 あ、目が合った。……そらされた。
まずは、謝るところから、かな。
「日向さん、さっきはごめん。話もう1度聞かせて」
 顔を上げた目元が潤んでる……見間違えじゃなく少し泣いている。
 同居をするようになって半年近く過ぎたけれど、これはレアケース。
次の言葉が出せなくて、お互い見つめ合ったまま時間が過ぎる。
俺は悪かったと声を掛けて頭ごと抱え込んだ。

 いったいどうしたんだろう。どう、してあげたらいい?
こんなときに初めて気が付く。
ダレカヲナグサメテアゲタコトガアッタカナ?
 俺はずるいから。欲しい物を手に入れるためならなんでもしてきた。
 怪我ばっかりする身体は、大事にしろと言い続けてくれていた日向さんがいなかったら、きっと早くに壊れていた。
サッカーに、キーパーに拘っていられたのは、この人がいたからだ。
 いつも自分のことしか考えていなかった。どこに行けば強くなるか、それだけだった。
 ひどい話だけれど、他人のことを心配をしているのはポーズでしかなかった。
 生まれ持っての冷たく整っていると形容される顔立ちと、やけに良い姿勢のせいか大抵のことは少し首を傾げたり、微笑したりで済んでしまっていた。
 さすがに寮に入ってから色んな経験をして、自分にも大事な人達がいるって気が付いて少しはましになったけれど。
 俺には人を癒す術なんてわからない。
「日向さんどうしたの」
 悔しいけれど、こんな言葉しか出てこない。
「好きだ、若島津」
 それはまた唐突な。もちろん俺だって。そう思って回した腕にぎゅうっと力を込めた。
「難しいんだ」
 どうしよう。コンロの火は止めてくればよかった。やっと口を開いてくれたのに。
身じろぎしたのがわかったのか、肩に手を回して立ち上がってくれた。ついでに俺も引っ張り上げながら。
火を止めて、急いで戻るとプレーヤーとヘッドフォンを持った日向さんが近付いてきて、胸にすがりつかれた。日向さんのつむじが見えてる。
 一体全体……何が起こって……そうじゃない、天変地異の前触れだって構わない。大切な人に頼られるのが、こんなに嬉しいなんて!
 幸せが身体中を駆け巡って、震えてしまいそうだ。
 昔俺からすると普通の相談をしていたときに、日向さんが嬉しいって漏らしていたのは、こういう状態を指してのことだったのだろうか。

 意外だと言われたけれど、日向さんに告白したのは俺のほうだった。
 ずっと昔から一緒で、俺の面倒くさがりなところも知っていてくれて、気が付いたら一番の理解者になっていた。
いつでも相談に乗ってくれた。頼っていた。気が付いたら家族より長く一緒にいた。スペシャルだ。
だから誰かの者になってしまう前に、俺が欲しがった。

 日向さんは友達のままでいるのが、俺には向いているだろうと思っていたらしい。
 ずっと好きでいてくれたのに、話すつもりはなかったと言っていた。
 サッカーのこと以外は自分を後回しにするのが日向さんだ。
 告白して、その日のうちに恋人になった。(手をつなぐところからの割とかわいらしいスタートだった)
 もっとも極々周囲には日向さんの秋波は明らか過ぎる程だったらしい。
 俺がブリザードの如く跳ね返してるのをさすがと思っていたという、空怖ろしい話を島野から聞かされた。
 何時くっ付いてもおかしくないカウントダウンを刻んでいたとは。
嫌われていない自信はあったけれど、玉砕覚悟の告白だった。知っていたら逆にぎくしゃくしていたかもしれない。周囲に興味を持たないというのも、幸せなことだったと思った。

 大学に行くという選択肢が俺の生活を変えた。
 日向さんは大学生とチームへの加入という二足の草鞋を履きだした。
 俺もサッカーの他に近くの道場で教えることになった。
(それがサッカーを続ける条件として、実家から出された提案だ。断るという選択肢はない)
 家族に初めて認められ、忙しいけれど充実した毎日だったというのに、心が落ち着かない理由がわからなくて、焦った。
 ひたすら練習に打ち込んだり、空手もやってみたり、それでも心にぽっかりと空いた穴は埋められなくて、行きついた結論が日向さんの不在だった。時間という物理的な問題で、当然の如く側にいた人が居なくなってしまっていたのだった。
 一番一緒に居られるのは、友達ではだめだ。恋人でないと。
 それが俺と付き合ってくださいという言葉になった。

 男同士だから、いきなり明らかな恋人モード全開にした気はないのに、反町から待ったが掛かった。
「君たち、ハートがだだ漏れしてるけど気付いてる?」
 2人顔を見合わせて笑うしかなかった。
 本人曰く恋愛の達人、反町先生に目立たなくなるようアドバイスをもらって、周囲にはどうにかばれずにすんだ。
 反町に日向さんは色々想いを漏らしていたようで、良かったねと言われていたのには驚いた。
 そんな感じで少しは貯えもできたので、2年の春から部屋を借りたのだった。

 +  +  +


 長い回想をしてしまったのは、気が付いたら朝だったからだ。
 今日は二人とも休業日だったので良かった。……違った、夕べを狙っていたのは日向さんか。
この人は俺とは違った意味で、画策がうまいらしい。
 夕べも散々弄られて、乳首がじんじんと痛む。
 シャワーを浴び温かいコーヒーを淹れて、シャツにスエットでくつろいでいたら、後ろから狼がまた胸を弄りに来た。
 けれどその前に。
 昨日の落ち込みはなんだったのか、夕べはなし崩し的にベッドに移動してしまったので説明を求めることにした。
 
 秋晴れで外は良い天気だ。室内にも明るい光が降り注ぐ。
その陽を浴びて、浅黒い肌の上を水滴が輝いている。湿った髪を拭きもせず肩にタオルをのせただけの、日向さんはこう言った。
「結婚しよう、若島津」
――危ない!盛大にコーヒーを蒸せるところだった。
「二十歳になったら、どこか海外で式を挙げよう。そうでないと俺は落ち着かない」
「歌からそこまで話が飛ばされちゃうと、お手上げだよ、日向さん。
プロポーズはうれしい。うれしいよ!」
でもさすがに話が繋がらない。
「…歌…そうだった。
ラムのラブソングを、大好きな男が浮気がちで困っている、でも好きだ、という風に教授は解釈したらしいんだ。そこが、かわいらしいと。
だから君達も好きな人を想って歌いなさいと指示された」
「それが何かまずいの?」
 一瞬瞬きをしている間に、キスされた。手が早いぞ日向さん。
「俺は全然浮気なんてする気はないけど、勝手に噂を流されるじゃないか。
大人数で食事をした中にアイドルの卵でも混じってれば、スポーツ紙の一面だ。お前なんかまだ学生なのに」
 日向さんではなく、俺の話です。でもホント、芸能レポーターには勘弁してもらいたい。
「だから、浮っついた心を持つ男を、好きだって言ってる歌なんて許せないんだ!
お前のこと考えて歌うなんて無理だって思ったら、泣けてきた」
「教授の解釈が受け入れられないのはわかった。でも課題は割り切ってこなすしかないと思うよ」
冷たいかなと思うけれど点数のためだ。教授に合わせるしかないと思う。
「それで、日向さんはそのことを考えているうちにけじめをつけたくなったの?」
 日向さんが真剣な目をしてうなずいた。
 だめだ、どうやっても顔がにやけてしまう。
「俺でいいの、日向さん。自分で言うのもなんだけど、一筋縄ではいかないよ」
「返事は?」
「もちろん、結婚してください」
 今度は見つめ合ってからキスをした。
「これで割り切って練習できる?」
 ぎゅっと抱きしめられた。日向さん、赤くなってる。多分俺もね。

 海外挙式はあんまりなので考えを変えてくれるように誘導を続けよう。どこから足がつくかわからないし。
俺の誕生日まで約3ヶ月の間に。……3ヶ月と言えば結婚に付き物のフレーズがあった。あれは婚約用の物かもしれないけれど、気をそらすことには使えそうだ。

 では本日午後は、マリッジリングでも探しますかと俺が提案をした。日向さんはきょとんとした後にまた赤くなった。
「この前チタンでできてる指輪を見たんだ」
「チタン?」
「堅くて壊れないし、色も渋い。俺たちにはそういう実用的なほうが向いてるんじゃないかな」
 ネット上のページを開いていく。
 人生って不思議だ。こんな非常識で大層なことを勝手に決めてしまう俺達も。 
 模範生のふりをして、世間を騙す猫被りには年季が入っているからきっと大丈夫。 
 反町曰く、日向さんも被っているぞとのことなので、期待しておこう。
「末永く、よろしくお願いします」
 手を差し出しながら日向さんに告げると、強い力で握り返された。



『ラムのラブソング』 アニメンティーヌの収録曲。
フランスを代表する歌手・クレモンティーヌさん。機会があったらお聞きください。かわいいです。




20131103/20150620
ラムのラブソング/オンリーイベント KojiKen DNA発行
話がどこに向かっているのか、手綱が取れていない感じですが、二人に幸せになってもらいたかったのでした。
今は世間様が大分フリーダムになった様に思いますが、気のせいでしょうか。
世界が愛に包まれて、幸せになれますように。